とうとう迎えたテツのターン。
さぁ、何をどう注文しようか。
「何本?」
注文を熟考していた俺に対し店主は、
本数だけを簡潔に聞いてきた。
ああ、それもそうである。
この店には「みたらし団子」しかないんだから、
欲しい本数だけ伝えればよいのだ。
そう、欲しい本数を伝えればよいのだが。
俺はこのとき、先刻の奥様が注文した、
30本という数字に飲まれていた。
「…じ、10本で」
やってしまった。
自分ひとりで食べる団子である。
なんなら2本でも良いではないか。
それを何故10本も・・・?
「みたらし団子専門店」という単語と、
「30本の奥様」の相乗効果。
俺の判断力は確実に、
おかしなことになっている!
店主は更に畳み込んできた。
「きな粉はつけるんかい?」
・・・!?き、きな粉?
え・・・何に・・・あ。
そうだった。
この店は何故か団子に、
きな粉をつけるのだ。
きっとこれが太秦式なのであろう。
ちなみに余談だが、
みたらし団子の起源は京都の茶店らしい。
下鴨神社近くの茶屋が発祥だそうだ。
しかしその店の団子には、
確かきな粉はかかっていない。
ごくプレーンな団子の筈である。
だが、目の前のこいつにはきな粉がかかる。
しかもその事実に対して、
「みたらし団子にはきなこでしょ~」といった、
さも当たり前のような口ぶりである。
太秦では団子がガラパゴス化して、
固有の生態系でも存在するのか…?
ならば生態系は崩してはいけない。
郷に入れば郷に従え、である。
「きな粉を…お願いしますっ!」
「あいよ~」
こうして店主は奥で団子を焼き始めた。
注文はこれで完了のようである。
いや、だがここは団子のガラパゴス諸島。
なにが攻めて来るか分からない団子屋だ。
気を引きしめて完成を待たねばならなぬ。
第1回『数奇』
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